ロシアは賄賂天国





2006年に行ったロシアメディアの調査によると
ロシア国内で年間に使われる賄賂の額は
ロシアの国家予算をはるかに上回るという調査結果が出ている。

賄賂は言うまでもなく、主に公権力の権力者に職権を用いて便宜を図ってもらうために金品などを提供する行
為のことを言う。
調査を行ったロシアメディアは、自らの国を「ロシアは賄賂天国」であると認めたうえで、その国家体質を批判し
ている。

ロシアはご存知のように過去にソビエト連邦という社会主義国家の歴史を歩んできた、
社会主義は、生産と配分の手段・方法を、社会の成員全体で共有することによって社会を運営していく体制であ
るが、
平たく言えば、すべての生産や配分の手段・方法は人民の名において国家が統制するという、強大な権力の一極
集中の社会である。
ここで社会主義について論じるつもりはないが、
少なくともソ連型社会主義国家は、共産党の一党独裁体制が長く続き、
共産党幹部や党員が特権階級として君臨してきた社会である。
ここに特権階級が幅を利かせる、腐敗体質の温床になってきた。

1991年12月ソビエト連邦は解体され、
ロシアは急速に市場経済主義国家への道を歩みだすが、
国家の体質そのものや、システムは社会主義時代の名残を大半残したままになっている。
依然として国家権力は、社会主義時代のそのままを継承しているのだ。

これは経済政策という部分においてロシアは変革されてきたが、
民主主義という部分における変革は十分に成し遂げていないということである。

またロシアの腐敗体質がいまだに続いているひとつの参考として
やはりロシアのマスメディアが無差別によるアンケート調査を行った結果
ロシア人が持つ政治家に対する信用度は2〜3パーセントしかなく、
続いて信用がないのは、検察官、裁判官、警察官などという
軒並み国家権力を行使できる立場の人間たちに対する信用度の低さである、
それぞれどれも数パーセントの信頼しかされていないのである。

また成人した国民から、
ここ3年以内に何らかの賄賂を払ったことがあるかという調査をしたところ
50%の人たちが、3年以内に賄賂を払った経験があると答えている。

ロシアの2007年度の歳入国家予算は7兆ルーブル、日本円に換算すれば約31兆円に相当する、
ロシアで年間に使われる賄賂が国家予算をはるかに上回るとするならば
ロシアの総人口は2006年1月時点で1億4000万人強である
これを単純に国民一人当たりで割ってみると
一人が年間22万円強の賄賂を使っていることになる。

現在のロシア国内の政治は権力構造の一極化になってきている、
端的に言えば、大統領とその側近や、政権を支える与党、
治安当局、内務省、検察など、
ロシア人が言う「力の省」の幹部たちを軸とした一極型権力構造である。


現在のロシア国内では、法律の改正が頻繁に行われている。
これは社会主義時代の法律が、現在もそのままであるのは不都合であるから、
当然変えていかなければならないことである。
ところが、ロシア人の多くの人は冗談とも付かないこんなことをよく言う。
「ロシアの法律が改正されるときは、新しく賄賂が取れる方法が発見できたときだ」と・・・

ロシアでビジネスを展開していく上で、たとえ私たち外国人であっても
ロシアの法律は密接に関連してくる問題である。

ロシアでビジネスをしようとすると、いくつもの許認可を必要とするものが少なくない。
以前サハリンプロジェクトの工事に参加した日本の建設会社の多くは、
ロシアで仕事をするために取得しなければならない許認可の多さに泣かされ、
またかなりの時間と、エネルギーを費やされた。
許認可申請を受理するロシアの関係官庁は、
申請書を受理してから許可を出すまでの時間が、気の遠くなるほどの期間を要する。
それでなくても、ロシア人の仕事のスピードはせっかちな日本人の5分の一以下かもしれない。
単純に言えば、日本人なら1日でできる仕事を5日から1週間かかるということだ。
だからロシアではどこの役所に行っても、朝から長い行列ができている。
たとえ行列に並んでいたとしても、その日、自分のところまで順番が回ってくる保証はない。
順番が回ってこないうちに、役所の終業時間がくれば、
行列に並んでいる人が何人いようが、おかまいなくその日は終わりになってしまう。
また翌日も朝早くから行列の中に並ばなければならない。

ロシア人は忍耐強く、何時間でも待っている。
それがソ連時代からの習慣になっているのだ、お上のやることに不平や不満、
文句を言ったらどうなるのかを身で教えられてきている、
ロシアの人たちは「ロシアだから仕方がない」とよく口にする。
ロシアの人たちには失礼な言葉になるが、
その姿は、国家に飼われている人間という動物に等しく見えてしまう。

待たされて多くの時間を費やすことは、経済的にも大きな損失となる
そのために役所に優先的に便宜を図ってもらおうと考える人がでてくる、
これが人間社会の常かもしれない。
極端に言えば、チョコレートの1枚から、安いワインの1本で役所の態度は変わる、
優先的に便宜を図ってくれ、費やす時間は極端に短くなる。

国内は国際石油価格の高値に後押しされ、内需拡大によって好景気が続いている
反面、ソ連時代にはなかった、一般国民の間に格差社会ができてきている、
ニューリッチという言葉は古くなりつつあるが、
ニューリッチである高所得層と低所得層の差がぐんぐん開いてきている
高所得層の贅沢振りは半端ではない。
ロシアの役人の所得はきわめて低い水準にある、
政府は役人の収賄をもちろん法律上でも禁止し、厳しい姿勢を見せているが、
本気で取締りを厳しくすれば、役人たちの不満が爆発してしまう
賄賂はそんな不満を持つ、役人たちのガス抜き効果になっていることを政府が一番よく知っているのだ。

ここでひとつの例として水産業界における賄賂の構図を紹介する。
水産業界における賄賂の構図は、ロシア全体の賄賂の構図にもつながるからだ。

ロシアの水産界はクォーター制をとっている、
どの水産物でも漁獲するためには、その魚種のクォーターを取得することが義務付けられている。
クォーターを発行するのは、政府の水産委員会である。
しかし、それぞれの水産業者に許可される漁獲トン数は極めて少ない。
その許可される漁獲量では、どこの水産会社も会社の経営が成り立たないのだ。
またこの漁業クォーターも、最初から漁業とは縁のない団体や、学校といったところに優先的に与えられている
のも面白い。
どの団体も、学校もすべて裏では政府有力者が関係しているところばかりである。
水産委員会割り当てのクォーターを取得できなかった水産会社は、
コネを使って、クォーターを持っている団体や学校から高いお金を払って、権利を借りることになる。
権利を借りるということは、名義はそのままで漁獲するということで、権利金のほかに漁獲量に対するトン当たり
のリベートも取られる。

それで得たクォーターでも、そこに許可されている漁獲量では会社の経営が成り立たないので、必然それ以上の
漁獲をすることになる、つまり密漁である。
クォーターを手に入れるために、数万ドルのお金をすでに使ってもいるから尚更である。

密漁は法律で禁じられている、
見つかれば多額の罰金と、船舶の没収、懲役刑が待っている。
しかしロシアの水産会社は、どこの会社であろうと100%密漁しているのが現状だ。
密漁を取り締まる機関は、国境警備局、漁業規制局、環境保護局、FSBなど多数ある、
それぞれが独立した機関であるから、
ひとつの機関でお目こぼしをされても、他の機関が逮捕すればそれで終わりである。
したがって密漁をする場合は、すべての機関に賄賂が必要となる。

今度はその漁獲したものを外国と貿易をする場合、
税関や、外国貿易取り締まり警察、国境警備隊などが出てくる、
これらにも当然賄賂が必要となる。

漁業者は生活のために賄賂を払い
「力の省」の役人は、低い所得を補うための手段として賄賂を受け取る
ここには互いに、持ちつ持たれつの相関関係がある。

ロシア政府は、ロシア極東の水産資源が枯渇していく問題について
日本が密漁されたものを買っているから、
泥棒に加担している国だと、矛先を日本に向けて非難している。

この水産業界の構図を見てくると、ロシアの本質が見えてくる。



ロシアは賄賂天国だ。
これは、ロシアでは日常茶飯事のように、毎日どこかで無数の贈賄・収賄が繰り返されているという意味にもなる
が。
天国と名づけたのには、もうひとつ別の意味がある。
それは、このような国だからこそ、お金で解決できない問題はないことを意味する。
極端に言えば、裁判の判決までもがお金で買えてしまう国である。
ロシア国民が裁判官に対しての信頼が低いのもここにある。

ビジネスという面から捉えれば、
複雑な法律や、当局の横行はリスクとして捉える向きが多い。
しかし、逆の発想で捉えれば「権力者」と仲良くすることは、
企業経営を成功させるための決め手にもなっていく。
今のロシアでニューリッチ、ニューロシア人と言われる富裕層は
すべて「権力者」と仲良くやってきた連中ばかりである
ロシアで「権力者」に逆らえば、
2002年に米「フォーブス」誌でロシア第一の富豪と名指しされた
大手石油会社ユコスのミハイル・ホドルコフスキーの例を見るまでもなく
あらゆる法律を持ち出して潰されてしまう

日本企業は大企業になればなるほど
ロシア権力者との関係の持ち方が下手である
それは他に出てきている欧米企業の目を気にしていたり、
ロシアにおいても贈収賄は立派な犯罪であるために
社名を傷つけないようにと、体裁ばかりを繕おうとしている
何も日本の政治家や官庁との普段の癒着ぶりをそのままロシアでも発揮すれば
ロシアビジネスは大半が成功したようなものであるのに、
どうも狭い島国根性が邪魔をしているようだ

どちらかと言えば、ロシアでのビジネスは
体裁を気にする大企業よりも、むしろ名もない中小企業や、
個人事業主のほうが、ビジネスチャンスは広がっていると思える
最近ロシアには中国人や韓国人の商業者が増えてきた、
しかし、彼らを見ていると韓国人や華僑のやり方は
互いの国同士の横のつながりを重視した
「赤信号皆で渡れば怖くない」方式のビジネス展開をしている、
ロシア人が最も嫌うやり方である
そのために、彼らのショッピングセンターが差し押さえられたり
ロシア当局からいろいろな干渉が入ったりと
また新しい法律の制定により、外国人商業者の割合が決められ
仕方なしに店をたたんで本国に引き上げてくる中国人たちが増えている
中国国内の新聞でも、ロシア側のこうしたやり方を批判している
しかし、外国からどれだけの批判を浴びても
「そうですか、すみません」という気質はロシア人気質ではない
「誰がなんと言おうと俺は俺の道をいく」というのがロシア、
それは、ロシアの対外外交を見てもご存知の通りである。

端的に言えば、ロシアビジネスの成功は
必要と思える関係省庁の権力者に賄賂を打つ弾と、
度胸があればあっという間に巨万の富を得られる土壌の国なのだ。
これは外国人だからといって差別はない、
ロシアは100以上の民族が混在する国なのだから、
日本のような狭い島国根性を持って外国人を遇することはない。
自分の懐を暖めてくれる人は、
たとえどこの国の人間であっても、「仲間」なのだ、
ゆえにロシアは「賄賂天国」なのである。