現地事務所開設までの手順
ロシア現地に、現地事務所を設置するためには、少々複雑な手続きを踏まなくてはなりません。その手続きに
は大きく分けて、日本国内での手続き、ロシア国内での手続きと、両国にわたっての手続きを必要とします。
ここで言う現地事務所とは、連絡事務所、あるいは駐在員事務所という意味においての事務所を指します、こ
の現地事務所を設立できる資格は、日本で法人登記がなされている企業を対象としますので、法人登記がない
個人事業主は対象外になります。
また現地事務所の最大の特徴は、ロシア現地における一般業務活動を行うことができますが、現地事務所にお
いて利益の伴う収益活動はできません。どういうことかというと、現地事務所の資格で、ロシア国内において物
品の売買を行い、金銭授受の営業活動ができないと言うことです。
現地事務所はあくまで、連絡事務所であり、駐在員事務所としての機能の範囲内での一般業務活動が認めら
れているということです。ロシアでは、このような形態の事務所を代表部と総称しています。
またロシアに入国するためには、ビザ(査証)が必要ですが、ロシア入国ビザは招待制度となっていますので、
外国法人の現地事務所においては、このビザの招待状の作成ができません。
したがって、ビジネスビザを必要とする現地事務所に駐在する社員のビザは、ロシア国内で取引のあるロシア
企業で招待状を作成してもらい、ロシア内務省が発行するインビテーションの原本を受け取り、在日ロシア大使
館、総領事館等においてビザの発行をしてもらうことになります。
日本の会社から、緊急に現地事務所に出張したりする場合、旅行代理店などで観光ビザの取得ができますが、
観光ビザには制約があり、あらかじめ予定された地域しか移動できないので注意が必要です。
以上、現地事務所にはこれらの特徴がありますので、現地に事務所を出されるときの参考にしてください。
現地に事務所を設立するためには、まず事務所を出そうと予定する現地に行く必要があります。
現地に行って必ずやってこなければならないことを以下に記します。
@ 現地で登記手続きをするために、法律事務所を代理人として選定しなければなりません、法
律事務所の名称、所在地等を書いたメモか名刺を受け取ってくること。
A ロシア側の取引先に行き、推薦状を作成してもらう。これは2通以上必要になりますので、
最低2社の取引先から推薦状を作成してもらわなければなりません。
B 事務所の賃貸契約。必ず契約書の写しをもらってこなければなりません。
次に日本で必要な手続きを順を追って説明していきます。
まず最初に下記のものを用意する必要があります。
@ 法人の定款
A 法人の登記簿謄本か登記証明書
B 取引銀行発行の銀行残高証明書
C ロシア国内における現地事務所開設の、法人としての決議書
(これは取締役会議事録のことで、取締役会を開き、ロシア現地に事務所を設置することに全会一致で決
議したという議事録が必要になります)
D 登記手続きを引き受けてくれる法律事務所、あるいは登記手続きをしてくれる代理人に対する委任状の作
成。
(この委任状は法人を代表する、代表者名で作成し代表印を捺印)
E 代表印の印鑑証明書
F 事務所開設のための申請書の作成
< 申請書に記載しなければならない項目は以下のとおり >
1.法人の社名
2.会社形態(株式とか有限の形態)
3.創立年
4.所在地
5.事業内容
6.定款記載の代表者名および取締役全員の氏名
7.ロシアにおける事務所設置の目的
8.ロシア現地事務所の所在地
9.ロシア取引先とのこれまでの実績と、今後ロシア側取引先と協力して何をしていくのかの展望を記載
G 現地事務所の運営規則
(これには、現地事務所名(○○株式会社代表部)、本社の社名、ロシア国内所在地、設立の目的、事業内
容、運営規則、ロシア人従業員採用の場合の就業規則、などが記載されたもの)
H 現地事務所を代表する、所長への委任状
(取締役会で議決された議事録とともに、代表者名による委任状)
以上、準備するだけの書類を上げましたが、次にしなければならないことは、このすべての書類に対して、日本
の公証人役場ですべての書類を認証してもらわなければなりません。公証人役場によっては、このような書類の
認証をしたことがない公証人は戸惑います、例えば銀行の残高証明などは、認証のしようがないという公証人
がたまにいますが、私文書認証制度というものがありますから、必ずしてくれます。
さて、公証人役場においてすべての書類を認証してもらったら、その認証された書類には公証人の印が捺印さ
れております。
次にしなければならないことは、この公証人は国家が承認した正しい公証人であるということを証明する必要
があります。分かりやすく言えば、この書類を認証した公証人がきちんとした資格を持つ公証人かどうかの証明
をするということになります。
これを証明してくれるのは、公証人役場が所在する地方法務局になります、ですから次にすることは公証人役
場で受け取った書類一切を、今度は地方法務局に持ち込んで、地方法務局長に、公証人の認証をしてもらわなけ
ればなりません。
地方法務局はちゃんと知っていますので、戸惑うことはありません、認証時間は2時間から3時間待てばその日
のうちに認証してもらえます。
まだあります、次はこれら一切の書類にアポスティーユの付箋が必要になります。アポスティーユというのは、
外国公文書の認証を不要とするヘーグ条約で定められているもので、このアポスティーユの付箋は外務省の書
類認証課に証明班というところがありますが、ここでやってくれます。
外務省証明班によってすべての書類にアポスティーユの付箋が済めば、いよいよこれらすべての書類をロシ
アに持ち込むわけですが、ロシアに持ち込まれた書類は、最初にロシアの公証人役場に提出して、これら日本から
持ち込んだ書類をすべて認証する作業に入るわけですが、このときアポスティーユの付箋がされていないもの
は、どんな理由があっても認証されないことになります。
また日本から持ち込む登記簿謄本や、会社定款、その他取締役会議事録、申請書など一切の書類は日本文に
なっています、日本文はアポスティーユの付箋がされていても、ロシアの公証人役場では何を書かれているの
か、その内容がまったく分かりません、またそれらの書類は最終的にロシアの登記機関に提出されるものですか
ら、認証しようにも認証ができなくなります。
したがって、ロシアの公証人役場に書類を持ち込む前に、これらすべての書類はロシア語に翻訳しておかなけ
ればなりません。
この翻訳はすべてアポスティーユの付箋がなされた後でなければなりません。
アポスティーユ付箋前の翻訳は没になりますので、注意が必要です。
さてこの翻訳ですが、現在ロシア語の翻訳業者はたくさんありますが、日本の翻訳業者に依頼して翻訳したも
のは、ほとんどロシアの公証人役場では認証されません、その理由は、日本から持ち込む書類はロシアでは、公文
書と同等の位置づけになります。
そのために、翻訳文が正しいかどうかの証明をする必要がでてきます、この証明は今度は日本の公的機関の
証明ではなく、ロシア政府の認めるところが証明しなければなりません。したがって日本の翻訳業者では、私の知
っている限りではロシア政府から公的文書翻訳の資格を持ったところはありません。
以前、これを知らずに日本の翻訳業者に高い翻訳料金を払って、ロシアの公証人役場に書類を持ち込んだ企業
がありましたが、すべて受け付けてもらえず、倍以上の手間がかかる結果となっています。
現在一番間違いがないのは、在日ロシア大使館、総領事館で多少時間はかかりますが翻訳サービスをやってく
れています。この機関で翻訳されたものは、証明が添付されますので、ロシアの公証人役場も間違いなく受け付
けてくれます。
実際はロシアの公証人役場には、登記手続きを代行してくれる法律事務所なり、その代理人が行
って手続きをしてくれます。
また、現地事務所を所在地とする州政府が作成する事務所開設承認等の手続きも、法律事務所が
やってくれますので、現地に行った人は手続き完了までの間に、代表部(現地事務所)の印を作成
する準備をしたり、事務所に必要な備品等の準備をしたりで、何かと細かい作業に追われている間
に、登記完了となります。
これらの作業を進めて行く中で、注意しなければならないことは、ロシアの法律家と名乗る人た
ちです。
ロシアでは通常、大学で法律学を修めれば、誰でも法律家と名乗って商売をすることができま
す。中には大学を出ずとも、法律に少し明るければ法律家と名乗っている人間もいます。
いわば日本で例えるなら、どこかの大学の法学部を卒業したら、誰でも法律家として商売ができ
るようなものなのです、ですからロシアの法律家と名乗る人間の中には、相当できの悪い法律家も
たくさんいます、悪をたくらんで名乗っている法律家もいます、そのためにロシアでは、法律家の
たて分け方として、裁判所の法廷に立つ資格を持つ法律家と、その資格を持たない法律家で区別を
しています。
法廷に立つ資格を持つ法律家は、日本で言う弁護士と同じで、資格を持たない法律家は法律のス
ペシャリストとでも言ったらいいのでしょうか、ところがロシアの法律家はどちらも一様に法律家
としか名乗らない場合が多いのです、法律事務所の看板を掲げていても、実際に法廷に立つ資格を
持たない法律事務所もたくさんあります。
ロシアにはそのほかに、日本にもその事務所を置くような、国際的な法律事務所も出てきていま
すが、料金は恐ろしく高い料金を吹っかけられます。
事務所を設置するその都市に、この法律事務所がなければ、出張費から滞在費等を別途請求され
ますので、請求金額を見て後でひっくり返るような金額を請求されないことです。
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